核心はどこ?
投稿者:吉田里美さん


 涸沢の雨に降られ続けたメンバーが全員集合ー。勝野さん、飯高さん、小林さん、そして私、吉田の面々。
今度は大丈夫かなとの不安を吹き飛ばしてくれた爽やかな秋の日、幽の沢V字右ルートへ。「今年は、まだ紅葉していないね」と、話しながら出合へ。入り口から暫くは、私の苦手な沢登り風な所を上っていく。三人はスタスタと歩いて行ってしまい、私は見る見るおいてきぼり。水恐怖症の私は、滑りおちそうでそのまま水につきそうで、まともに立って歩けない。六年前の九月に来たときも、ここで苦労した事を思い出す。あの時は、もっと濡れていて、「何なのだ、これは!」と思った処。今回も同じ思いだった。「ラバーソールを履いたら?」と言われ靴を履き替える。恐々歩き出すと、不思議、平気に足が出るようになった。やっぱりラバーソールは魔法の靴だ、皆に追いついた。
カールボーデンの末端辺りで、「先に行ってもいいですよ。少し真っ直ぐに行って右に入る感じで歩いて下さい」。「ハイ・・・」。「変な方へ行ったら、後ろから指示しますから」。私は既にラバーソールをはいているので、岩場はスゴク歩き易い。
 空は青く澄み、山の樹々は少し色付き初め、空気はカラッとして、陽射しは暑くなく柔か、風は心地良く渡り、岩登りをするには、申し分ないジョウキョウ。 あぶなっかしい私のすぐ後ろに飯高さんが居てくれる。気分良く歩くというより、むしろ、登りだしていた私達に、下の方から声がした。振り返ると、本当、だいぶ登っていた、けっこう高い。「そっちじゃない、もっと右の下の方から」。「エッー、そんなー」、「降りて」、「ここから降りるのは、難しいです、降りられませんー」。「じゃ、そこで待ってて」。二人して登ってくるのを柔かな風に吹かれて待つ。実に気持ちがいい。

四人が揃ってからロープを結び合い、登りだす。どこが取り付きだったのか判らないままに。一P目、ちょっとシュビアなトラバースから始まる。先行パーティが居ないのも気分がいいのかもしれない。途中で、「次のピッチが核心ですか?」と尋ねると、冗談っぽく、「核心など、ないですよー」といわれてしまった。「そうでしたっけ?・・・」。どこのピッチを登っても小林さんは、「気持ちいい、きもちいい」の連発でした。いつも以上に、ゆっくり楽しみながら、終了点へ。11時15分、「オー、速い」と感じた。(家に帰り、六年前の記録を見ると、二時間弱位早い、この差は何なんだろう、あの時も四人でしたが).終了点から、岩混じりの笹と低潅木を掻き分け、堅炭尾根へ。稜線上の樹々は既に赤くなり始めていた。
そこから芝倉沢まで二時間余り、歩きにくい処を小枝や小笹につかまりながらおりる。沢に降り立ち、流れに手をいれ水を飲む、スゴク冷たい。あと、一時間ぐらいで一の倉出合へつくはず。
 気持ちのいい秋の中、私にとってV字右ルートの核心部は、出合からの沢伝いに歩くあの場所だと確信した一日でもありました。

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