ブロック雪崩
投稿者:H.Yさん


長いトラバースを過ぎ少し気持ちが落ち着いた。
「ウワッー、こんな所危なくって行けないよー、落っこっちゃう」と恐怖心が先立ち、足は全く前に出なかった処・・・。
フ ッと上を見上げると広い広い雪の斜面が続いている。第一 クーロアールだ。
大きな岩峰がスクッと青空に立っている。「キレイだ・・・、かっこいいナー」。その雪面にロ −プがスルスルと延びていく。
「吉ー、こいっ」といわれ 「いきまーす」と応え登り出す。あの怖いトラバースに比べなんと気持ちのいい登りなんだろう。2ピッチのぼりキチンとセルフをとる。

3ピッチ目、ロープを結んだパートナーが5mほど右にトラバースし登り出す。その時、上の方から大きな声がした。思わず見上げると私をめがけて岩 の塊と雪が勢い良く落ちてくるのが目にハッキリと映った。「アッ、雪崩だ!」。
一瞬、逃げようとしたがスグに 逃げ切れないと判り、直前にくるまでしっかり岩と雪を見ていた。「あー、本で読んだのと一緒だ、これなんだなー。こういう時は頭を下げてやりすごすと書いてあったな 」と思い、私も体を低くして頭をさげた。とたんに周り中がまっ暗になった。
不思議と恐怖心はなかったが、寡黙な家人の言葉を思い出した。山へ行くのは構わないけど、雪 のある時の雪崩だけは心配だね」と一度だけ言われた事を。
「Mさんのようにならないから、大丈夫」と答えた事も・・・。岩がゴンゴンとヘルメットにあたる、背中に雪 が入る。ザックをかすめておちていくのが判る。
「ムチウチになっちゃうよ、早く過ぎてくれないかな、頼むよー」と思いながらジッとしていた。
ほんの数秒の出来事だったんだろうが私にはえらく長く感じられた。そのうち、周り がボンヤリ見えてきて、おおー終わったなと知らされた。
「大丈夫?!」と声をかけられ「大丈夫です!」と応えられた自分が嬉しかったし、家人を哀しませなくて良かった なー。あの日、虫の知らせがよかったのかもしれない、というのも、あの恐怖のトラバースの時、私はキャップを被っていた。ホッと一息要れたとき「ヘルメットにしようか、どうしようかな」と迷い、一度はキャップを被り何となくヘルメットに替えた。チェンジしてなかったら雪崩の 中で大変だったかもしれない。
確実なビレー、ヘルメット、そしてなにより40m上に屈強な男性が二人いるから 流されても絶対止めてくれると確信していたから、あんなに冷静な私でいられたのだろう。
ちょっと手荒い洗礼を受けた天狗尾根だった。

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