修験道の峰 霊山・釈迦ケ岳
投稿者:長谷 晃 さん


 大峰山といえば、山岳宗教修験道の根本道場として全国的に有名で、大峰山脈は北の吉野川から南の熊野本宮にいたる約160キロメートル、修験道75ケ所の行場があり、今から1300年前開山したと伝えられる。古来修験者達による山岳信仰の場としての大峰は今も山上ケ岳(1720メートル)を中心に登拝する信者は多く、今なお全国で唯一女人禁制の山として、伝統ある信仰の強さを示している。もちろん修験道にも盛衰はあり明治元年神仏分離が発令されて以来、特に南半分(南奥駈道)は荒れるにまかせていたが、近年奥駈道に魅せられた登山愛好者により整備が進められ、北の吉野から南の熊野まで通して歩けるようになった。

 今回は(11月10日〜11日)山族会例会として、男性三人女性二人のパーティーでその大峰山脈の中心に位置する、釈迦ケ岳(1800メートル)と大日岳(1600メートル)の山行である。
 今から24年前NHK新日本紀行の取材で南奥駈道を熊野まで5泊6日で歩いたことがあり、その後1回と今回は3回目であるが、かっての2回は「前鬼」から太古の辻まで急坂4時間の苦しかった想い出が脳裏をかすめ最年長者で最後まで登りきれるだろうかという不安と、頂上に安置された釈迦像を再び拝観できる喜びを交錯させながら、早朝5時にRV車で白浜を出発。当日奈良地方は高気圧におおわれ好天との予報に心はずませ、前回までのコースと違い十津川経由旭口からダムへ向かう道へ入った。だんだん谷が深くなり細い急坂な道をぐんぐん高度を上げ「峠の登山口」に8時半到着。すでに1300メートル位は登っただろうか、登山口付近から見上げる頂上は濃霧におおわれ視界ゼロ。身じたくを整えいよいよ頂上へ向けアタック。夜露とガスの影響で足元の草には水滴があり路面も濡れている。背丈ほどの高さの笹道で両肩を濡らしながら進むと30分ほどで「不動小屋林道」との分岐にでた。急に視界が開け、大台ケ原にも似た小笹原とブナの大木の疎林になり稜線づたいのルートになった。幾人もの人が歩いているうち小笹の海を踏み倒してできたであろう緩やかな小道を登っているうち「古田の森」のピークへ到着。小休止。ガスが切れていると顔前に釈迦ケ岳、南側には大日岳の鋭い山容が眺められるはずと視線を移してもピークはガスの中、濃霧が早く切れることを願いながら再び頂上へ向け歩きはじめる。「千丈平」に着くとキャンプサイトらしき広場や焚き火跡が広がってその上部には年中絶えることのなさそうな水場もあり、夏場霊山の涼風を味わっているのは何人か・・・。ここからは急峻な坂道になり前鬼との分岐をすぎると10分で釈迦ケ岳山頂に着いた。11時。山頂には高さ4メートルはあろう釈迦の銅像が安置されている。20数年ぶり釈迦像との再会。北斜面から吹き上げる霊山の寒風に身を清められながら俗界の雑念を忘れしばし合掌。
 前鬼側から登るルートに比べこのルートは大変楽なコースで少々物足りなかったような気もした。ガスが切れていると頂上は360度の大パノラマで、北を見れば仏生ケ岳、八経ケ岳、行者還岳、大普賢岳、山上ケ岳、南側には石楠花岳、大日岳から地蔵岳、涅槃岳、笠捨山を経て延々と伸びる大峰奥駈道の尾根筋が見られないのはまことに残念。20分ほどの山頂征服の充足感を味わい、記念撮影のあと今日のもう一つの目的、大日岳へ向かうことにした。標高差300 メートル足下の悪い道を一気に下ること30分「深仙の宿」に到着。深仙の宿には灌頂堂があり、峰中の要所で大峰山脈の中央にあたり、今も修験道では古式にのっとり深仙灌頂を行う秘密の道場となっている。お堂を開けてみると不動明王が鎮座していた。この標高でやっとガスも切れ遠く下界の紅葉も陽光に映えている。昼食タイムを終えいよいよ大日岳挑戦。右に「五角仙」という岩塊を見送ると前方に大日岳の岩峰が迫る。ほぼ垂直にそそり立つ岩峰は一枚岩ではなく、大きな岩が何枚も重なりあった状態で、上部から大きな鎖がつるしてあり、それを伝って登って行くのである。しかし一歩間違い左下に落下すれば最後。女性Hさん、Yさんはすいすいと登りきってしまったが、男性はいささか躊躇しながら挑戦するも二人脱落し南まきルートから頂上へ。男性一人でも・・・と最年長者が挑戦し、山頂からの女性の声援を受け、足を震わせながらようやく頂上へ。修験道での「行」体験の満足感と恐怖感を同時に味わった一時。後で聞くと女性二人ともロッククライミングの経験者とのこと。大日岳頂上には大日像が建っている。お互いにそれぞれの思いで合掌しながら頂上から振り返ると、相変わらずガスのかかった釈迦ケ岳、その東側にローソクを立てたような「五百羅漢」と称する奇岩がつづき、真下には先ほど昼食をとった深仙の宿が見える。下りは女性が鎖を伝って下りる危険を制止し、5人とも南まきコースで下り深仙の宿に到着した。深仙の宿では前鬼から登ったパーティーとも言葉を交わしながら、2峰の登頂で今日の目的を達成し下山に向かった。下山本来のコースは深仙の宿から釈迦ケ岳手前まで登りを引き返してから下るが、すぐ横に地図にない別ルートがあったため引き返し組3人、別ルート組二人と別れて出発。別ルートは登りまきで長く感じたが引き返すよりもうんと楽で、千丈平で合流したが20分ほど待つことになった。この間にも釈迦ケ岳から下りてくるパーティーに数組あった。引き返し組はまた釈迦ケ岳近くまで登ったため大変だったようだ。午後も3時近くになり温度計を見ると、気温は4度と下がり寒さが身にしみるようになった。笹海の中をどんどん下りながら、ガスで見られなかった釈迦ケ岳の頂上に未練が残り、振り返り振り返り見るも最後まで見ることはなかった。でも1500メートル位からの遠望は素晴らしく大峰の修験道の山々が日に照らされ輝いている。左を見れば先ほど登った大日岳の鋭峰とそそり立つ岩場。それぞれの想いを胸に午後4時過ぎ登り口に下りた。車で下り道、早朝気ずかなかった紅葉も夕陽に照らされ真っ赤に映えている。止まってはシャッターを切り止まってはシャッターを切りしているうちに日は陰り、今晩の宿に着くころには暗くなってしまった。
 近くの「夢の湯」温泉で今日の疲れを流し、無事の登拝にビールで乾杯。「わツ旨い」みんな同時に叫ぶ。これがあるから山行は楽し。
 身も心も清まる仏の峰、釈迦ケ岳、大日岳登山。充実の一日は終わった。


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